「ペット可=トラブル多い」は本当?安心して暮らせる家が千葉にありました。《ペット可賃貸|実例・オーナー取材》

ペットはNGという大家さんが多いんですけど、実際に受け入れてみると、意外とそれほど大きなトラブルはないかなと感じますね

そう語るのは、千葉県茂原市や一宮町などを中心に23棟50室を運営する大家、伊藤さん。東京の通勤圏からは外れた地域で、うち5〜6棟を小型犬または猫1匹までのペット可物件として提供しています。リードフックやキャットウォークといった設備を備えた“THEペット共生住宅”ではなく、一般的な住宅を「ペットもOK」として開放しています。

「ペット可物件が少ない」「トラブルを懸念されて借りにくい」「そもそも歓迎されていない」——。そんな空気感に直面した経験のある飼い主なら、伊藤さんのような大家さんに出会えたことが、どれほどありがたいことか、きっとすぐにわかるでしょう。

この記事では、「ペット可は積極的な経営判断」とする伊藤さんの姿勢、ペット可物件に適切な構造的な特徴、そして何より“人を信頼する”という経営方針を掘り下げます。

取材先紹介

伊藤 正克さん
株式会社ソフィアエステート代表取締役/日本不動産経営協会(JRMA)執行役員
1991年自宅敷地に2DK2戸の物件を建てたのが賃貸経営の始まり。その後会社員を続けながら2007年よりほぼ毎年中古物件を取得。現在11物件23棟57室(すべて千葉県内)及びトランクルーム47室所有。不動産関係の保有資格は、宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、住宅ローンアドバイザーなど。
1958年生まれ。千葉県在住。趣味はアウトドア(カヌー)と音楽(バンド)と不動産。

目次

ペット可は「仕方なく」ではなく「前向きな判断」

「借り手が少し見つかりづらい物件は、積極的にペット可にするようにしています。問い合わせが一気に増えるので。」と伊藤さんは語ります。

「肌感覚では1.5倍くらい増えますね。7倍に増えたときもありますよ」

ペット可物件は市場全体の2割弱と少なく、ニーズの高さがうかがえます。

伊藤さんの物件では、まず「ペット可」とは謳わずに募集し、反応が弱ければ途中からペット可に切り替えるという柔軟なスタイルを取っています。「選ばれるための選択肢」としてペット可を前向きに捉えている姿勢が印象的です。

こうした対応の成果もあってか、50室ある物件は毎年ほぼ満室。稼働率は98%と非常に高く、ほとんど空きが出ない人気ぶりです。言い換えれば、それだけ多くの人に選ばれ続けている物件だということです。

なお、それ以外の物件も、「ペット可」とも「不可」とも明記せずに募集。入居希望者から相談があった際に個別に対応を判断しているそうです。

飼い主にとっても「選別されていない感じ」が心地よく、物件との出会いが自然体であることが安心感につながるのではないでしょうか。

伊藤さんが経営する物件の一つ(伊藤さん提供)

騒音トラブルはゼロ。鳴き声や足音が気になりにくい「小規模物件・戸建中心」

ペット可物件で懸念されやすい騒音トラブル。しかし伊藤さんは「鳴き声によるトラブルは一度もない」と言い切ります。

その背景には、伊藤さんの所有する物件構造の傾向があります。伊藤さんの物件の多くは戸建や2〜6世帯程度の小規模アパートで、上下階や隣室との接触が少なく、音が響きにくい構造になっています。

「戸建は上下の音を気にせずに済むので、ペットを飼っている人にも飼っていない人にも向いていると思います」と伊藤さんは話します。

とはいえ、単身でペットを飼う入居者に対しては、留守中の管理に少し不安があるとも語ります。

 「部屋にペットを残したまま外出されると、鳴き声などで周囲に迷惑がかからないか気になりますね」

伊藤さんが経営する物件の一つ(伊藤さん提供)

原状回復トラブルもほとんどなし。猫もOK。

ペット可物件では避けて通れない「原状回復」の問題ですが、伊藤さんの物件ではこれまで大きなトラブルは起きていません。唯一記憶に残っているのは、物件の前オーナーの時代から中型犬と暮らしていた入居者のいた部屋でフローリングに目立った傷がついていたケースが一度あった程度だそうです。

多くの大家さんは「ペット相談可」としつつも、「猫は匂いが心配」「壁が傷つくのでは」といった理由から、「犬はOKでも猫はNG」とするケースが少なくありません。

しかし、伊藤さんの物件では猫もOK。
「小型犬でも猫でも、1匹なら大丈夫です。匂いや爪とぎによるトラブルはこれまで一度もありません

伊藤さんの知人である他の大家さんからは、「ペットが柱や壁に傷をつけた」といった話を聞くこともあるそうです。

 「僕の場合は幸い、そういったことは一度もありません。入居者の方がきちんとしつけをしてくれていたおかげだと思います」

伊藤さんが経営する物件の一つ(伊藤さん提供)

トラブルの有無は「ペットの有無」では決まらない

ペット可にするとトラブルが起こるのでは?」——多くの大家さんが抱える共通の不安です。では、伊藤さんも当初はそうした懸念を持っていたのでしょうか。伺ってみると、「僕の場合は、あまりそういったイメージはなかったですね。逆になんでみんなペット可にしないのかなと」と穏やかに話してくれました。

「もともと僕は中古の物件を買い進めていて、その中には、すでにワンちゃんが入居している状態の物件もありました。そういうケースでも、だからといって大きなトラブルがあったという印象はありませんでした。

ちょっと極端な例になりますが、いわゆる“不良入居者さん”っているじゃないですか。家賃を滞納したり、部屋をゴミ屋敷にしたり。そういうトラブルって、ペットの有無に関係なく起きるんですよね。

もちろん、ペットは鳴いたり汚したりする子もいるでしょうけど、それは『ペットだからトラブルを起こす』というのとは違うのかなと、僕の感覚では思っています。」

伊藤さんが経営する物件の一つ(伊藤さん提供)

すべての起点は「人との縁」

伊藤さんが賃貸経営を始めたのは、48歳のとき。子ども向けの本を作る出版社で働きながら、最初の物件を取得したのが賃貸経営のきっかけでした。その後、仲介業者や銀行、リフォーム業者とのつながりが自然と広がり、現在のかたちができあがっていきます。

不動産は、すべて人との縁でできています。だから、入居者さんにも、業者さんにも、感謝の気持ちを忘れないようにしています」

物件を通じて生まれる“信頼の連鎖”を大切にする伊藤さんですが、入居審査はあくまで一般的な方法です。家賃保証会社の審査に加え、仲介業者との面談で人柄を推し量る程度。ペットを飼う入居希望者だからといって、特別な面談を設定しているわけではないといいます。

それでも大きなトラブルがほとんどないのは、物件そのものが、丁寧に暮らす人を引き寄せてくれているのかもしれません。

とはいえ、すべてを形式に任せているわけではありません。「家賃保証会社の審査は通っても、人としてどうかはわからない」と伊藤さん。最初から非常識な家賃交渉をするといった要求の多すぎる人は、たとえペットを飼っていなくてもお断りすることもあるそうです。

伊藤さんが経営する物件の一つ(伊藤さん提供)

自主管理ならではの「つかず離れず」の安心感

伊藤さんの物件は、基本的に管理会社に委託していますが、一部の物件はご自身で管理も行っています。そうした“自主管理物件”では、入居者に自身の携帯番号を伝え、何かあればすぐに連絡できる体制を整えています。

「過剰に干渉はしません。でも、困ったときはすぐに連絡してもらえるようにしています」

実際、ある年末には水漏れの連絡が入り、大晦日にもかかわらず即対応したというエピソードも。普段はあえて距離を保ちつつも、いざという時には頼れる存在として寄り添う姿勢が伝わってきます。

この「つかず離れず」の距離感と素早い対応は、住む側にとって非常に心強く、安心感を抱くのではないでしょうか。

ペットと安心して暮らせる“人の見える”住まい

伊藤さんの物件には、いわゆる高級なペット専用設備があるわけではありません。けれど、飼い主が安心して暮らせるための“本質的な安心”が、さりげなく散りばめられています。

  • ペット可にした理由が、柔軟かつ前向き
  • 音の問題を軽減する建物構成
  • 自主管理ならではの迅速で丁寧な対応
  • 人との「縁」を大切にする経営姿勢

つまり、ペット可物件とは“特別な造り”ではなく、“柔軟な姿勢”で成り立つことがある、ということ。伊藤さんの物件のように、日常の中にペットとの暮らしが溶け込む形が、実は最も現実的な共生スタイルなのかもしれません。

伊藤さんが経営する物件の一つ(伊藤さん提供)

[編集後記] 共生社会のリアルな私たち飼い主たちがすべきこと

今回お話を伺った伊藤さんは、日本全国の賃貸経営者が集まる団体「JRMA」の代表理事を務めていらっしゃったすごい方。自身の実体験だけでなく、多くのオーナー仲間の声もふまえた、貴重なお話を聞かせてくださいました。

ペット可物件を検討する際、大家さんが不安を感じやすいポイントは、「匂い」「破損」「音」、そしてそれに起因する「近隣トラブル」。中でも伊藤さんが特に挙げたのは、「鳴き声」と「足音」でした。爪が床に当たる音は、音に敏感な方にとっては気になるものですし、鳴き声も人によっては強いストレスになりえます。

ペットの有無にかかわらず、隣人や職場の同僚を含め、身の回りの人との関係を大切にできる“常識的な人”に住んでもらいたいですね」と伊藤さんは語ります。

取材を通じて筆者が改めて感じたのは、ペット共生社会に本当に必要なのは「飼い主の意識」だということ。たとえば、音が響かないようにじゅうたんを敷いたり、しつけ教室で学んだり。鳴き声や足音へのちょっとした配慮だけでも、周囲に与える印象は大きく変わります。
「ペットがいるからトラブルが起きる」のではなく、「人としての気遣いがあるかどうか」が、共生できるかどうかの分かれ目だと考えます。

もちろんこの考え方は、ペットを飼っているかどうかにかかわらず、大切な視点です。
隣人にすぐ文句を言ったり、ゴミを窓から投げたり…。世の中にはちょっと信じられないモンスターのような人がいるのも事実です。伊藤さんも30年以上の長い賃貸経営の中で、過去にはどうしても対応が難しくて退去してもらったことも3回ほどあったそうです。

だからこそ、伊藤さんが求める理想の入居者像は明確です。
「ペットの有無に関係なく、周囲との関係をきちんと築ける人」
それこそが、不動産を運営していくうえで最も安心できる条件だと語ります。

結局大切なのは、「どう暮らすか」という姿勢。そんな飼い主が増えれば、ペットと安心して暮らせる住まいも、もっと増えていくはずです。

なお、伊藤さんの物件は、「ペット歓迎」を前面に押し出す物件ではありません。
それでも、人と人の信頼関係を大切にしたやりとりのなかで、「この人なら」と判断してペットとの暮らしを柔軟に受け入れてくれること、そして「気遣いや関係性を大切にすること」が何より大事なのだ、というメッセージがこの記事から自然と伝われば幸いです。

伊藤さんの物件情報について

所在地:千葉県茂原市、長生村、一宮町、睦沢町など
物件数:23棟50室。うち5〜6棟がペット可として賃貸中
ペット可物件の条件:小型犬または猫1匹まで。物件によって敷金の積み増し・償却あり。空室確認や入居リクエストはこちらから。

※本記事の内容は、2025年5月時点の取材・情報に基づいています。

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